俳句の殿堂

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春野(ハルノ)

結社理念

春野 冊子
先師・安住敦のことば「花鳥とともに人間が居、風景のうしろに人間がいなければつまらない。」をそのまま受け継ぎ、「自然と人間の関わりを見つめ、人間存在のまことを探る」を俳句理念とする。手法としては、五所平之助の遺訓「俳句は美しくなければならない。俳句は見えなければならない。俳句は平明でなければならない。」を作句三か条として掲げる。

主宰者

春野主宰:黛 執
黛 執(マユズミ シュウ)
昭和5年3月27日、神奈川県生まれ。
昭和40年五所平之助より俳句の手ほどきを受け、「春燈」に入会、安住敦の指導を仰ぐ。同49年第3回春燈賞受賞。同59年超結社同人誌「晨」同人参加。平成5年「春野」創刊主宰。同16年、句集『野面積』により第43回俳人協会賞受賞。俳人協会名誉会員・日本文藝家協会会員。
【句集】
『春野』『村道』『朴ひらくころ』『野面積』『畦の木』
【エッセイ集】
『俳句あれこれ』ほか。

連絡先

住所
〒259-0314 神奈川県湯河原町宮上274
FAX
0465-63-4178

主宰の100句

1 雨だれといふあかときの春のおと
2 振り返つてみたくて上る春の坂
3 遠くゐてまなざし熱き冬の犬
4 秋の暮かへり見る木のみな高し
5 凧高く揚げ杣の子のひとりきり
6 種馬の胴かがやきて曳かれけり
7 牛の仔に水の不思議な田植前
8 大杉の真下を通る帰省かな
9 ひぐらしの山を四方に洗ひ鍬
10 田草取る真昼ひとりの音のなか
11 夕花野風より水の急ぎけり
12 飲食の口の奥まで秋の暮
13 身の中を日暮が通る西行忌
14 念珠揉む掌もて牡丹を咲かせたる
15 春惜しめよと切株の二つ三つ
16 かまいたち仏に花を怠れば
17 うぐひすに山墓の水やつれけり
18 蛇衣を脱ぎてみどりの芯に入る
19 馬の眼のかくもしづかに草いきれ
20 傷口を舐めて犬起つ西日かな
21 軒先に吊すあれこれ冬近し
22 初夢の端踏んで猫通りけり
23 少年の胸に鳩ゐる夕がすみ
24 秋風や水のおもてに鯉の口
25 伸びきつて猫の胴とぶ星月夜
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26 鳥交む空へ仏のたなごころ
27 焚き口に山風あそぶ干菜風呂
28 暮るるとも暮れぬとも亀鳴けるとも
29 年の火に今生の身のうらおもて
30 かたはらに吊鐘の闇田水沸く
31 鳥は雲に人は仏に石積んで
32 うしろから道ついてくる枯野かな
33 ふるさとの柱太かり蓬餅
34 湯が沸いてをり山茶花が散つてをり
35 別なもの見てねんねこの母子かな
36 夜は風にもてあそばれて遍路笠
37 墓洗ふついでの恨みつらみかな
38 金色の雲打ち延べて神還る
39 眺めゐる老人もまた初景色
40 ひたすらにそよいでゐたる余り苗
41 春炬燵みんな出かけてしまひけり
42 風花のちらと米砥ぐ音の中
43 てふてふの散らかしてゐる日向かな
44 跳び越えてごらんと春の小川かな
45 海見えてきし遠足の乱れかな
46 音すべて谺となれり山始
47 生涯を仏に仕へ黴くさし
48 またひとり海を見に出る年忘
49 寒柝のつぎの一打の遥かなる
50 山を褒め川を称へて夏料理
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51 まつしろなごはん八月十五日
52 嫁をいびり仏をいぢり暖かし
53 ぐんぐんと山が濃くなる帰省かな
54 蘆刈の音とほざかる蘆の中
55 痛さうに空晴れてをり冬ざくら
56 朴の木に朴の花泛く月夜かな
57 ふるさとの山白息をもて称ふ
58 仏飯に湯気のひとすぢ緑さす
59 昼寝覚手足いつぽんつづ戻る
60 身の芯に川音たまる湯ざめかな
61 毛糸編むあたたかさうな顔をして
62 さへづりへ開く柩の小窓かな
63 縮んだり伸びたり春の野辺送り
64 春障子すこし開きたるまま暮るる
65 ふんはりと峠をのせて春の村
66 滝壺の中より滝の立ち上がる
67 風の木となる梟の去つてより
68 看経のいつしか声となる寒さ
69 魚は氷に婆は念仏堂にかな
70 麦踏の川覗いては折り返す
71 いのちなが白い障子に囲まれて
72 誰もゐぬ焚火がひとつ葬のあと
73 雪婆ふはりと村が透きとほる
74 てふてふもみどりごの瞳も忙しなき
75 冬を待つみんなやさしい眼になつて
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76 田づくりのてのひら厚し四方拝
77 秋風に流されてゐる夕日かな
78 方丈の手より抜け出て浮かれ猫
79 なきがらに緑の風の濃き夜かな
80 梟のきまつて夢を見る頃に
81 軒といふ燕の置いて行きしもの
82 雪くるぞ来るぞくるぞと火が真つ赤
83 さむざむと風鳴つてをり夢のあと
84 春になる村にいちにち風吹いて
85 雪の夜は遠いむかしを語らうよ
86 どの家も暖かさうに灯りけり
87 川上へ春が上がつてゆきにけり
88 とぼとぼと歩いてゐるよ麦の秋
89 炎天へ出て行く鎌を研ぎ澄まし
90 桐いつも遠いところに咲いてをり
91 どの木ともなく風鳴つて緑の夜
92 白鷺のいつも遥かに一羽かな
93 月にじみ出るかなかなの声のあと
94 わざうたにかりがねの空ひろがれり
95 百草の香のみつみつと冬に入る
96 山眠る遠いむかしの色をして
97 年寄をずらりと咲かせ冬日向
98 野につくる火のうつくしき十二月
99 あをあをと風ながれをり雪のまへ
100 あたたかし藁家に雪の積む夜は

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